大判例

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東京高等裁判所 昭和27年(う)3032号 判決

論旨によれば、原判示第二事実の被害者たる野尻嘉七が被告人に偽造公文書の作成を依頼したのであり、被告人は野尻から融資の便を得るため同人の依頼に応じたが他人に偽造文書を交付しないことを条件とし原判示の公文書を作成交付したものであり、しかも右偽造に係る公文書に表示せられた資源庁鉱山局長や通商産業省鉄鋼局長は錫の払下につき何の権限を有するものでないことを野尻自身が熟知しているのであるから同人を欺罔したとはいえず従つて詐欺罪を構成しないし、右のように権限を有しない官庁の文書を偽造したからとて公文書偽造罪を構成しないものと主張し、原判示第三事実の被害者山口久雄も錫の払下につき被告人の協力を求めて、運動資金を醵出したものであるからこれ亦詐欺罪に当らないと主張するものである。

しかし権限を有しない官庁の文書を作成した点が公文書偽造罪とならないという点を除けば、右論旨は事実の誤認を主張するものと認められるところ、刑事訴訟法第三百八十二条には事実の誤認があつて、その誤認が判決に影響を及ぼすこと明かであることを理由として控訴の申立をした場合は控訴趣意書に訴訟記録及び原裁判所において取調べた証拠に現われている事実であつて、明らかに判決に影響を及ぼすことを信ずるに足りるものを援用しなければならないと規定されてあるに拘らず論旨には単に右のように事実の誤認を主張するのみで、これに関する記録並びに証拠に現われた事実を援用していないのであるから右主張は刑事訴訟法第三百八十六条第一項第二号にいわゆる方式違反の控訴趣意に該当するのみならず、原判決挙示の証拠によつて原判示事実を認められるのであつて、そこに事実の誤認があると疑わしめる点が存しないから事実誤認を主張する論旨は理由がない。又資源庁鉱山局長や通商産業省鉄鋼局長が錫の払下について何等権限を有しないことは所論のとおりであるが、右鉱山局長や鉄鋼局長名義を以て原判示の如き内容の文書を作成すれば人をして真正のものと誤信させ、公文書に対する信用を破壊するに至ることは明白である。従つて原審が前記鉱山局長や鉄鋼局長が錫の払下についての権限の有無を問うことなく、被告人が右局長等の名義によつて原判示のような錫払下に関する文書を作成したことを以て公文書偽造罪に当るものとしたことは正当であり論旨はいずれもその理由がない。

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